ビラーンの医療と自立を支える会(HANDS)

ホーム -> ビラーン通信バックナンバー -> ビラーン通信35号より

現地報告 ビラーン通信35号より

モスンプロジェクト進行状況   森田 奈美

 8月1日〜21日の3週間、フィリピンに滞在しました。出張中、たくさんの人たちと様々な話し合
いを持ち、各地を訪問しましたが、今回は(財)ひろしま・祈りの石国際教育交流財団から助成
金を受けて実施しているモスンプロジェクトについてご報告したいと思います。

授業の様子
   モスンはチボリ語で「(花の)つぼみ」を意味する言葉で、このプログラムでは無認可の学校運営をしています。ここに来ている子どもたちは過去にドロップアウトしたことがある子や、学費が払えず他の学校に行けない子などです。現在はバサグ・ノフォック地域に7〜18才の子ども達と、トゥバトゥ地域に7〜14才の子どもたちがあわせて80名ほどいます。

 このプログラムは1年間で終了するカリキュラムを組んでいて、基礎的な学力と生活に必要な技術(主に農業)等を組み合わせた独自のカリキュラムで学びます。
1年後、DECS(日本の文部科学省)の試験に通れば、普通のハイスクールに入る資格がもら
えます(つまり、小学校を卒業したとみなされる)。今年の春に試験を通った子は8人でした。
 また、先生はチボリ語の「ワグ(お姉さんという意味)」で呼ばれ、教科書も独自に作られた物語風の、チボリ語と英語両表記のものを使い始めています。このプログラム発起人であるレックス氏が「画一化的な現在の教育では、子どもたちの可能性や、自分で学ぶ力がつぶされてしまう」とミーティング中に熱く語っていたのが印象的です。日本の教育にも十分当てはまることだと思って聞いていました。先住民であること、アイデンティティや文化を保持・継承していくことを、勉強する中でも失わない・切り離さない形である、長年試行錯誤を重ねられてきた中での取り組みです。  
プロジェクトで製作した教科書

 子どもたちはプログラムの中で1人1羽の鶏を飼っていて、私に自分の鶏を見せようと、必至
に追い掛け回してみんなで大笑いする場面もありました。放し飼いにされている鶏は元気良く
逃げ回り、なかなかつかまりません。自分の鶏に名前をつけ、嬉しそうな子どもを見ると、私も
嬉しくなります。(余談ですが、フィリピンの鶏肉は本当においしいです!!)

ほったて小屋?いえいえ立派な教室です
 
 教室は「ほったて小屋」で、仕切りもない中、2クラス(10才までとそれ以上)に別れ勉強していますが、みんなで教科書を読んだりすると、もう片方のクラスの子どもは集中できない状況です。ワグのひとりが「雨がしのげるだけまし…」と苦笑していたのを思い出します。はじめ、予算が少ないのもあって、ワグは週3日働くという内容で予算を組んでいましたが、やはり導く人なしに自習というのは難しく、ワグたちは週3日の手当てしかもらってないけど週5日働いています。そのことに文句も言わず、このプログラムは自分たちの民族のために必要だから… と、このプロジェクトが続くことを願っていました。
 
今残念なことに予算がないため給食が出せず、おなかをすかせた子や休んでしまう子がいま
す。1日1回でもおなか一杯ごはんを食べられることは必要です。育ち盛りのときに食べるもの
がないのは本当につらい。はっきりいって「お勉強」どころではありません。プログラムでの学
校農園でたくさんの収穫があるといいなぁ、としみじみ思いながらみんなとさよならをしてきまし
た。

 教育プログラムは本当に時間もかかり、また教育だけやっていればいい、というものでもない
ので大変です。しかし、今までの積み重ねが、一生懸命働いている「ワグ」たちを育てたのだ、
という事実は私たちとしても共に喜べることだと思います。みなさん、いつか一緒に現地の人び
とに会いに行きましょう。そして、「日本」が常識ではないこと、様々な状況にある人々とどんな
形でいい関係をつくっていこうか、ということなど、考えていきましょう。



土地問題

 今回の訪問中、ワグのリーダー格であるバーバラさんがバサグ・ノフォック地域の土地問題
のことを訴えていました。昔、先住民の支援・教育のためにと土地を提供した元地主の息子
が、元地主であった父親が死に、今になって欲が出たのか(?)「この土地は自分たちのもの
だ」と、そこに住んでいる人たちの畑を荒らし、木を切り倒しに来るというのです。私も現場を訪
れ、無残になぎ倒された木々や荒らされた畑を見てきました。畑を荒らされてしまったうち、9人
の子どもを持つイバさんという女性は、「畑の収穫で子どもを学校に行かせ、家族が食べてい
けると思ったのに…」と、途方にくれていました。今、あの家族は食べていっているのだろうか
…? と心配です。

 この土地問題については、事務局長の山崎と私が現地滞在中、マーベル市の市役所を訪
れ、サウスコタバト州知事に訴えの同行をしました(外国人がいることで、真剣に受け止めても
らえるという期待に添ったもの)。その成果があってか、次の週に検察官が聞き取り調査に現
地を訪れていました。きちんと調査し、暴力的な行為を働く人に厳しい対応をしてくれるといい
のですが…。

このページのTOPに戻る    ホームに戻る