ビラーンの医療と自立を支える会(HANDS)

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現地報告 ビラーン通信39号より

巡廻診療報告   安達美菜

 9月21日、最初の巡廻診療を行うチボリ町バサグ村に向かう。トラックでハイウェイを1時間位走った後、山の中へ向って更に1時間。突然、村が開ける。急病になった時、搬送が大変だと思う。

 ヘルスワーカーのジョジョやリジャが普段使っている薬を見せてもらう。日本でもよく使われている抗生剤、解熱鎮痛剤、去痰剤、胃薬などで驚く。普段、薬を使わない人たちにとって、強すぎると思われるからだ。私が持参した薬は、はるかに体に優しいものだ。また、去痰剤が咳止めに使われている。空咳の多いこの地域の人には向いていない。後でジョジョと相談しよう。 
 

 会場の教会に沢山の人たちが集まってくる。ほとんどが小さい子供を抱いた女性だ。始めに
ジョジョとリジャが問診をし、名前、年齢、症状などを書き込んだカードを持ってくる。住民は痩
せてはいるが、栄養失調は見当たらない。症状は、咳、胃痛、皮膚病、風邪、頭痛、下痢、腹
痛、筋肉痛など。咳が一番多い。主に夜や早朝に咳き込むそうで、診察時には咳は無く、喉も
発赤など無い。痰も無い。ビラーン語からセブアノ語、さらに英語と通訳するので、どの位続く
のか、酷く咳き込むのか、又は軽くコンコンと出る程度なのか、詳しい事が掴めない。咽頭痛
は無いし、肺音も正常なので薬はいらないように思う。トリプル通訳は症状の種類、程度、部位
を聞くのに不自由する。次回来る時は、最低限のビラーン語を覚えて来たいと思った。問診票
に胃潰瘍とか仙痛(胆石とかに使う)とある人たちは、何が根拠なのか戸惑った。胃が痛いと
胃潰瘍になるのか、胃炎とある人もいてその違いが判らない。どちらも胃粘膜修復薬を出す。
皮膚病はほとんど掻き壊し傷が感染を起こしたものだ。直りかけているのもあった。下痢は食
中毒とも違い、風邪やウイルス性腸炎、体質的なものもあるようだった。軽い下痢止めを処方
する。この地域の気候、常食、体質など情報が必要だと感じる。長年の重労働により関節、筋
肉が痛い中年、老人。塗り薬を塗り、湿布を当てると'ほう'という顔をする。申し訳ないが、十分
に薬を持ってきていないので、ほんの数日分しか渡せない。日本の老人は恵まれている。貧血
の女性が何人かいた。ほとんど妊婦で、もちろん母子手帳や定期検診は無い。出産までにトラ
ブルは無いのだろうか。少女と言っていいあどけない顔の妊婦が多く(10代)、既に2人位の子
どもを腕に抱え大変だろう。重症例もある。熱がありぐったりしていて、自力で飲み込むことも
出来ず、すぐに入院が必要だと思われた乳児。結核と診断されたがお金が続かず放置してい
る40代の男性。周囲への感染も気になった。病院で腹部の'ガン'と言われたが、お金が無いの
で手術出来ないのだという60代の婦人。本当にガンなのかどうかもう少し詳しく聞かないと判ら
ない。初産以来、毎月、定期的に腹痛と嘔吐、下痢、熱があるという女性。血液検査や便培養
などしないと正確な診断は出来ない。いずれもジョジョに任せるしかない。小さい時に背骨を折
り、歩くたびにゼイゼイいうので喘息だといわれた7歳の少年。喘息ではなく運動量の低下によ
る心機能と背椎の変形による肺機能の低下と思われた。体を鍛えるようにとしか言えなかった
が、この社会で身体障害者として生きていくのは厳しいものがあるのではないか。子供とは思
えない暗い目が忘れられない。

 9月23日、マラバタン町ツガル村に行く。今回は遠いので1泊。米軍払い下げのトラックで山を越え、川を10回ぐらい渡り、溯り、(荷台の人達は大変どころでは無い様だった。私は助手席に座らせて頂いた)やっとたどり着いた村は35軒という小さな村だった。電気も水道も無いが、とても清潔で、馬、豚、犬、鴨の親子などが歩き回り、のどかな村。川が増水すると危険で渡れず、小学校を休むというのは気になった。しかし、小さな子どもたちは、急な坂道を家まで水運びし、日が沈めばランプの灯でおしゃべりや歌を楽しみ、蛍が飛びかう心豊かな暮らしだ。私たちはもう戻ることは出来ないが、この暮らしに学ぶことが  
ヘルスワーカーのリジャ(右)が英語からビラーン語へ通訳する
多いように思った。水源から引いた水で調理、洗濯、シャワーをし、下水は川に流れていく。ト
イレは穴を掘り、水をかける方式だが、不思議と匂いは無くハエなども居ず清潔だった。

 この村では、患者数は少なかった。症状としてはバサグの人たちと似ていたが、2例、虚を付
かれたケースがあった。1人は6歳くらいの女の子の食欲不振と不眠。よく聞いてみると1ヶ月程
前に両親の留守中にハンモックから落ちて以来という。内科的には問題なさそうで、落ちたショ
ックと寂しさ(彼女は長女で下に2人兄弟がいる)によるものと考えられる。もう1人は若い女性
で不眠。精神的なものから来る症状に、何の用意もしていなかった自分を深く反省した。子ど
もの方はお土産に持って行った菓子パンを食べていて、'ミロ'なら飲めるというので点滴代わり
に渡し、女性の方は、同行者の方がたまたま持っていた安定剤を少し頂いて、半錠づつ飲む
よう渡した。昼間は半袖で過ごせる気温なのに、夜は深々と冷え、長袖のトレーナーと薄手の
ズボンでは寒くて眠れないほどで、この気温差が咳の原因かと思った。また、後から知ったの
だが、村では1日1食、ご飯が主だった。私達は3食とおやつまで出して貰い、村人はどんな思
いで私達が食べているのを見ていたのだろうと、申し訳ない思いだった。

  2つの村の印象として、症状は日本の外来で診るものと同じものが多かったが、進行してい
る例が多い。そして必要な時にすぐ薬が手に入らないということが大きな違いだ。しかし逆に自
然治癒力はあるかもしれない。皮膚病や下痢に関しては食生活が影響しているように思われ
た。咳に関してはもう少し詳しい情報が欲しい。歯痛を訴える人が何人もいて、一時凌ぎの鎮
痛剤をあげるしかなく、歯科が必要だ。下痢に対して点滴をしてあげたいが準備が出来ず、代
わりにスポーツドリンクの粉末や、ミロなどを用意すると良いと思った。重症患者への対応が一
番の問題だろう。巡廻診療で出来る事は本当に僅かなのだが、それでも喜んでもらえたことは
嬉しかった。長い間辛い農作業をしてきて、関節痛と筋肉痛を訴えた老人に薬を塗り湿布を貼
った後に「Thank you,Mam.」と言って笑顔で握手をされたときは、本当に嬉しかった。



キアミ地区マラリア撲滅計画

 CMBよりマラリア撲滅へ向けての要請がありました。日本円で約40万円がかかります。事務
局では現在、会員からご寄付いただいた中古衣料や雑貨などをバザー、フリーマーケットで販
売し、経費の一部に充当するため努力しております。ご家庭の不用品の寄付をお願いいたし
ます。

目 標:乳幼児、妊産婦の死亡率を2010年までに75%減らす

対象地区と人数:サランガニ州マラパタン町キアミ、シラル、アバンボルールの3地区
           合計96世帯550人
           (ビラーン民族が主だが、カラガン、ムスリム、ビサヤ人も含む)

地域の状況:マラパタン町中心部の保健所や医療機関から、徒歩また馬で3時間の距離に
       あり、コーンや根菜類、バナナの栽培と豚、ヤギ、家禽類の飼育が主な生業

マラリア患者数:CMB/HANDSヘルスプログラムを通じて、初めて患者をジェネラルサントスの
          公立病院に入院させて以来、過去3年間に年平均20名の入院を支援。
          ほとんどの住民に発病の可能性がある
撲滅計画の概要と経費:
 @感染の疑いがある全住民550人の血液検査
 A水路、たまり水など蚊の発生箇所のクリーニング活動
   (年12回の共同作業食事補助)
 Bマラリア患者治療薬
 C蚊帳の配布 96世帯に2セットずつ
 D各世帯へ家庭菜園種子5種配布購入費(食生活改善)


P62,100(12万円)
P36,000( 7万円)

P43,857( 8万円)
P52,800(10万円)
P9,600( 2万円)
合計 39万円




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