ビラーンの医療と自立を支える会(HANDS)

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現地報告 ビラーン通信50号より

住民組織MTBCAIにゆだねられた持続可能な村の開発
 −ブラクールの首長ダトゥ・サルニ逝く(享年71歳) −

 ダトゥが亡くなった7月7日土曜の午後、奇しくも私は横浜NGO連絡会(YNN)主催の国際フォー
ラム・分科会会場で、ブラクール開発の礎を築いたこのマノボ民族の首長の話をさせていただ
いていました。

 1970年代末に、ダトゥがレイクセブにレックス神父(当時先住民族支援ミッションSCM代表)を
訪ねてブラクールの窮状を訴えた結果、1983年に地域で初めての学校SCMブラクール小学校
ができたこと、その後もダトゥのリーダーシップのもと、植林、簡易水道建設やアバカ栽培な
ど、FOT(少数民族里親の会・本部山口県)の支援を受けて生活基盤が徐々に整備されてきた
村の歩みを紹介しました。

 YNNから地域開発分科会の事例報告を依頼されてブラクールを取り上げることにしたのは、
住民組織の存在です。この組織はManobo T'boli Blakul Community Association Inc.(MTBCAI)
といいます。先住民族組織を支える現地NGO・PFPの協力と、民族の首長ダトゥ・サルニのリー
ダーシップのもとで、64世帯からなるMTBCAIは、学校運営やアグロフォレストリなどの持続可
能な地域開発事業を担ってきました。

 5年前、FOTに代わり、当会がブラクールの学校を支えることになった時、小学校とハイスク
ールの運営に年間いくら必要か、そのうちMTBCAIは、自主財財源である授業料収入、学校敷
地のアバカ収益などで何%ぐらい支えられるのか、概算をいただきました。その数字に基づ
き、小学校教師5名の給与分にあたる年60万円の支援を決めました。同時に、MTBCAIが自主
財源を増やせるように、小規模アグロフォレストリやヤギ飼育支援を始めました。計算では、5
年が経過した2007年度の当会支援は2002年の半分以下になるはずでした。しかし、PFPの助
言もあり、今年の支援額は3年据え置きの42万円です。

 6月訪問時訪ねた学校農園ではバナナがたわわに実り、ランブタンの果実も3ヵ月後には収
穫の予定と聞きました。ヤギの繁殖も成功し、すでに16世帯に配布されています。シナリオど
おりとはいきませんが、近い将来の豊かな実りを確信しました。

 MTBCAIの自助努力は行政にも評価されており、昨年度からハイスクール生徒授業料に政
府補助がでています。村の産婆だったイダは、バランガイヘルスワーカーに認定され、手当も
もらえるようになりました。

 共同体の精神的リーダーが亡くなった今、私たちは、住民組織MTBCAI、教師たち及びPFP
との連携を一層強めながらブラクールの持続可能な開発を支えていきたいと思います。



それぞれの新学期

ミアソン新入生とシェリルその後
 フィリピンは4、5月が夏休みで、6月に新学期が始まります。3月、12名の卒業生を送り出した
ミアソン寮には、12名の新1年生が入ってきました。ハイスクール1年は日本では中1です。貧し
かったり学校が近くにないため小学校卒業が遅れた18歳2名、17、16、15歳各1名、14歳3名を
含みます。家に帰れるのは1ヶ月に1度だけで、みんなホームシックにかかるようです。
 そんな寮生の母親代わりが寮母です。ミアソン寮は、昨年度のロウエンダがノビシエートのカ
レッジ生寮母に転任し、4年前に助産師コースを終了したビーナが赴任しました。
 3月卒業したシェリルも寮に残って後輩の世話をしています。前号で看護コース入試挑戦中と
紹介したシェリルですが、結果は不合格でした。CMIP訪問時に、このシェリルの救済を含めて
カレッジ奨学生の条件を話し合いました。
 前ディレクター・ファーディ神父の先住民族の子弟優先の方針は理解できるが、シェリルのよ
うに両親のどちらかが非先住民族でも、貧困、好成績の条件にあえば奨学生全体の20%を限
度に受け入れようという暫定的なルールを決めました。
 シェリルは今、寮で家庭教師役を務めながら、9月実施のMSU一次試験に向けて準備中で
す。

レイクセブで学ぶあしなが奨学生3名
 サウスコタバト州レイクセブ町にあるサンタクルスミッション学校法人(SCMSI)カレッジは、レ
イクセブ及び近隣の先住民族コミュニティーのリーダー育成を目指す単科(地域開発学部)大
学です。30年近い歴史の中で多くの教師や農業指導者が育ちました。

<エディ>前号で紹介のように今年2年生。
<クリスティナ>ブラクールから16km離れたトゥラテ村の出身。親類宅に寄留して通ったブラクール校を今年卒業。
第1志望だったコロナダル市の助産師コースは不合格で、医療衛生の基礎知識を学べるSCMカレッジに決めました。
<ルナ>2年前ブラクール校を卒業。イスラン町の小さなマーケットで働き家計を助けていましたが、専門知識を学ん
でブラクールのために働きたいとあしなが奨学生に応募しました。

 今年のあしなが支援会員は8名(9口)です。キングスカレッジ4年のロデルを含めて4名の学
生を支えています。
 なお、前号でカレッジ卒業を報告したマイラは、ブラクール校補助教員として採用される予定
です。
<2006年度CMIP小学生(奨学生53名)概況>
6年生:13名卒業。退学、結婚2名、転居1名
1-5年生:33名進級。留年1名、退学、転居3名
ご支援ありがとうございました!

<CMIP新入生13名のリストが届きました>
新たに小学生を支援いただける方募集中です!
<ブラクール小学校6月末の登録数は101名>
里子報告は8月末にお届けの予定です



海辺のヘルスセミナーに参加して

 6月10日、ラボビーチ研修センターのCMIPヘルスセミナーに相田さんと参加しました。CMIP
のミッションエリアが拡大し、地区あたり一人の参加と聞きましたが総勢50名はいます。海風が
心地よい竹とココヤシのセミナーハウスは学習環境としては最適で、みな熱心に薬草の話に
耳を傾けメモを取っていました。

 講師はG.サントス周辺貧困地域の医療に取り組むカガペ医師。私たちにイラストを多用した
自作のテキストを見せてくれました。できればこの冊子を当会の協力を得て印刷、配布し、普
及させたいとのこと。これまでは巡回診療、入院支援等、どちらかといえば対症療法的だった
ミッションエリアでの医療支援。カガペ医師と連携することで予防を重視した医療協力の道が
開けそうです。

 この研修は9月と12月にも予定されています。保健ボランティアが学んだことを村で生かすの
に欠かせないのが受け皿としての住民組織です。幸い、CMIPはキリスト教基礎共同体(BCC/
ビサヤ語でGKK)作りに力を入れていて、セミナー参加者はこのGKKの保健ボランティアです。
パササンバオ(PIHS)のような住民主体の組織とは異なりますが、このGKKが巡回診療の拠点
になり、セミナー参加者も組織を通じて健康な村づくりに貢献してくれるものと期待しています。



セブ湖を見下ろす伝統ハウス − チボリ女性の組合COWHEDの夢実現へ −

 2004年、赤字経営のCOWHED再建を訴えて組合長になったメルチさんには、複合経営への
夢がありました。寄付された土地に、ハンディクラフト店舗と研修施設を作りたいと、2005年に
は青写真もいただきました。

 レイクセブ町はサウスコタバト州の夏の都と言われる避暑地です。高度1200mほどの丘陵に
囲まれてティラピア養殖のいかだが浮かぶセブ湖があり、湖の周りには民芸品店やリゾート施
設が10軒ほど並んでいます。夏休みの4、5月は観光客や研修で賑わいます。しかし、その経
営者はレイクセブの人口の半分以上を占める低地人(パナイ島などのビサヤ諸島からの入植
者が多いため、ビサヤ人とも言う)で、チボリ民族は資本がないために、その賑わいに指をくわ
えているしかありませんでした。COWHEDには各種伝統工芸品製作者が揃っていますし、主婦
ですから料理はお手の物。食堂や宿泊施設ができれば雇用創出になります。

 しかし、組合員の経営手腕は未知数です。当会の会員の一部にも慎重論がありましたが、ま
ずティナラク織り実演と製品の展示販売を目的とする伝統ハウス建設支援が5月総会で承認さ
れ、建設が始まりました。総予算は33万円。HANDSは水周りを除く30万円を支援しました。あ
とは地元の寄附や組合員の責任で賄うことになっています。

 観光振興を標榜するレイクセブ町もCOWHED伝統ハウスに期待を寄せています。8月下旬、
HANDSスタッフ現地訪問の機会に竣工式をする予定です。

 「夢の実現への一歩を支援してくれたHANDSに一同感謝しています!」メルチさんのメールです。



PFPのマイクロファイナンスへの取り組み

 前号でノーベル平和賞受賞者ユヌス氏に関連して、PFPのマイクロファイナンス計画の話が
出ました。これに協力を申し出てくださる会員の方がおり、PFP代表のルディ・パスターさんと会
合を持ちました。

 本職は銀行マンだったパスターさんはグラミン銀行の理念に共鳴して3年前に銀行を退職し、
ミンダナオ中部のブトゥアン市で仲間とマイクロファイナンスの活動を始めました。今回私たち
に協力を打診したのは、新規にコロナダル近郊でも事業を展開するに当たって、新たな原資を
求めてのことです。資金提供者の理解を得て、収益の一部をPFP運営の自主財源に充当し、
PFPの先住民族支援活動継続を保証する財政基盤を確立するという目的もあります。

 新規事業はまだ1ヶ月しか経過していませんでしたが詳細な報告書が用意されており、マネジ
メントは十分信頼できるという印象を持ちました。

 融資先はコロナダル公設マーケットで魚や野菜等を売って日銭を稼ぐ女性たち56人。ほとん
どが5,000ペソ(約13,000円)を3ヶ月間借りるケースです。月2.5%は、結構高利のようですが、
市中の金融業者の10−12%に比べればかなり低い利率です。その日の稼ぎの中から、毎日
返済するので無理がなく、今のところ滞納はないようです。借り手に研修や商売の助言をしな
がらの無理のない融資であり、今後に期待がもてます。

将来的には先住民族の村でも
 現金収入がない山岳部先住民族の村に、マイクロファイナンスが普及するのはかなり先のこ
とでしょうが、PFPは都市部で実績を作ってから山岳部での実施を考えています。住民が始業
資金(商品仕入金)があれば、再開したいと思っているブラクール組合店舗などがその対象に
なるでしょう。


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